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いまの吹奏楽は「寄せ鍋」ようなもの

第16回定期演奏会(1997.6.29)プログラムより 音楽監督 柏木 利介

世の大人たちの中で「音楽は何が一番好き?」と聞かれた時「吹奏楽」などと答えるやつは、めったにいるものではない。そんなこと言おうものなら、たいていの場合、よっぽどの「偏執音楽愛好家」か「オタク」に思われ、全くモテないヤツの仲間入りになるのがオチである。そのせいか、吹奏楽をやっていることを秘密にしている大人が結構いる。だから吹奏楽をやってる人の多くは「音楽は何が好き?」と聞かれたら、即座に「モーツアルト」とか「バッハ」などと言い、真面目人間のふりしてごまかすか、もしくは「ベルリオーズ」と言って、知ったかぶりしてしまう・・・ほかにも「グローブっていいよね。僕も小室は大好きさ!」と、うそ吹いてしまうというパターンや、吹奏楽版のアレンジか、F-1のテレビでしか聞いたことがない「スクエアー」を持ち出してみたり、「ジャズってすばらしいんだよ」と、もう何がなんだか訳の分からない音楽論を振りかざしてしまうヤツもいる。挙げ句の果てには「俺って楽器吹くのへただけど、ホラ吹くのはうまいんですよぉ。ハハハ・・\(^o^)/・・!!」などと言ってのける、オヤジ吹奏楽愛好家まで現れたりもする。いずれにせよ、「吹奏楽やってる」という言葉の中には「隠れキリシタンの踏み絵」みたいな要素がある場合が多く、できれば秘密にしておいたほうが無難なのである。

僕自身、「吹奏楽やってる」と人に言うのをちょっとためらうこともある一人だが、反面「オタク」という人種が好きでもあったりして、今の状況を結構楽しんでもいる。しかし、たいていの吹奏楽プレイヤーは大学生や社会人になると、オーケストラやジャズに転向しまう。確かに「吹奏楽部です!」とか、「吹奏楽団に所属しています!」などと言うのはちょっとかっこわるい。「オレさぁ、ジャズやってて・・・」なんて言うと、周囲の人の見る目も違ってくるのだろう。また世の中には、18才以上で吹奏楽やってる人達に対して「音楽関係者の落ちこぼれ」のように考えている人も結構いるから、「オーケストラやジャズはむずかしそうだから吹奏楽でもやろうか・・・」という人々の集まりに考えられてしまわれがち、ということも影響しているかもしれない(吹奏楽プレイヤー自身で、そういう思考の人がいるのも事実である)。

『吹奏楽ってなんでみんなに受け入れられないのか? そんなにつまらないものか?』

というのが、僕たちのバンドの問いかけである。音楽関係者の落ちこぼれといっても、吹奏楽をやっている人が押し並べて演奏がへたなわけではない(注:鷹吹はそんなにうまくはないが)。現に吹奏楽コンクールで金賞とるような団体は、とてもアマチュアとは思えないような完璧な演奏をしている。しかしうまい演奏でも、吹奏楽の演奏会にお金払ってまで聞きに行こうという「一般の音楽愛好家」が少ないのも現実である。だから吹奏楽の演奏会は音楽好きな一般のお客さんより、出演者の親類縁者の割合の方がずっと多かったりする。たまに、コンクールの課題曲を取り上げたりすると、それを目当てに吹奏楽をやってる中高生が集まるだけ、ということでもある。でもどうにかして「大人でも楽しめる、金払っても聞きたい」と思ってもらえるような吹奏楽の演奏会ができないものか?? 今の吹奏楽界はそれを模索している。簡単に言えば「寄せ鍋」みたいな状態になっている。つまり、いろんなジャンルの曲(具)を試してみて吹奏楽がどんな音楽に向いているかを現在は捜している時代、と僕らは考えている。吹奏楽と言えば「マーチ」と考えがちだが、実は30年程前から吹奏楽はマーチよりもクラシックアレンジを演奏することに必死になっていた。吹奏楽の格を上げるために。しかし「吹奏楽でオーケストラの曲をやってみても、やっぱり本家のオーケストラにはかなわない」ということが明らかになっただけだった(皮肉なことに、うまくなればなるほどそのギャップは広がる一方である)。結局、オケの曲をやっても面白くない! では何をやったらいいのか?

そして次なるジャンルを求める作業が始まったのだ。

鷹吹の演奏会でもいろんな曲をやってみて、お客さんにも、どんな曲が吹奏楽に向いているのか考えていただければ、と思っている。(しかし、失敗すると「寄せ鍋」じゃなくて「やみ鍋」になりがちだが...)

今回は無謀にも「春になって・・・」という吹奏楽の大曲にあえてチャレンジしてみました。この曲を通して、少しでも「吹奏楽」という形態のおもしろさを伝えられたら、と思っています。また、第2部ではオーケストラでは味わえない「リズム主体の吹奏楽の可能性」を引き出す試みとして、ジャズの秋吉敏子の2曲と、「007」ではファンクのリズムを取り入れたアレンジを選んでみました(こんな曲を取り上げる吹奏楽団は全国でもこの鷹吹だけでしょう)。そして他にも、クラシックアレンジの「軽騎兵」、ディズニー、ホルンやサックスのアンサンブル、ジャズコンボ・・・と、いろいろな音楽を並べた盛りだくさんの企画に仕立ててみました。吹奏楽のいろんな可能性について考えていただき、率直なご意見などいただけたら幸いです。

最後に、ふつう一般の吹奏楽団のメンバーは20才前後の人が中心ですが、このバンドは中学生から50才すぎまでと、その点でもちょっと変わっています。文字どおり「大人から子どもまで」ということです。

それでは、年齢構成も音楽も多彩(やみ鍋状態?)な鷹吹の演奏をお楽しみください。